左心低形成症候群と子育て日記

子供が左心低形成症候群(HLHS)でした。1歳半でフォンタン手術まで完了し、無事2歳を迎えました。

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インターネット上で病気について調べていた際に有用性のあった記事。下記を踏まえての私の見解は各エントリに記載。

心臓病の子どもを守る会(岡山県支部)* 第45回 全国心臓病の子どもを守る会 全国総会

さて私が今世界で少し有名になっている理由が二つの手術にあります。その一つは左心低形成症候群に対する右室―肺動脈シャントです。 左心低形成症候群では上行大静脈が非常に細く、肺動脈は非常に太いのが通常です。ノーウッドの手術では1)新しい大動脈を作る、 2)肺に行く血流を作る、3)心房中隔を切り取り、心房を単心房にして酸素が混ざるようにする。 これが大切な3つの要素です。このノーウッド手術を世界で一番多い施設(フィラデルフィア小児病院) で生存率63%。1000例以上やっている施設でも37%の死亡率です!信じられますか?1000例以上手術をしても、 まだ30%以上の子どもたちが死んでいるのです。調べてみると世界中の有名な施設、 有名な小児心臓外科医達がどこも同じような成績を出しているのです。皆成功率60-70%なのです。 どう考えてもおかしい。これらの心臓外科医は他の手術ではすばらしい成績を出しています。 何故かノーウッド手術だけ成績が悪いのか?それも10年以上に渡ってです。しかしその当時の日本は、 もっと悲惨な成績で、5-6の主要施設の病院死亡は58%、遠隔期死亡は20%ですから、結局生きている子はたった15-20%でした。

 1998年にノーウッド手術の変法で、右心室と肺動脈の中に、ゴアテックスの人工血管でシャントを作り、 肺血流量をキープする方法を発表しました。これが今言われている佐野手術です。ノーウッドの手術は鎖骨下動脈と肺動脈の間にシャントをして、 新しい大動脈に流れた血液の一部が肺動脈に流れていく。ですから、肺血流は体血流とのバランスによって血流の比率が変わるのです。 子どもが泣けば肺の抵抗は上がりますから、肺に流れにくくなり、チアノーゼはひどくなりますが、体に流れる血液は増えます。 しかし泣き止むと、肺の抵抗は下がり、肺に血が流れやすくなりますから、体に流れる血液量は減ります。すなわち血圧が下がるのです。 ですからちょっとしたことでバランスが崩れ突然死するのです。一方、佐野手術は心臓から血液を流す時に、体に流れるのと、 肺に流れるのとに別れてしまいますから、ですから体に出された血液が肺に取られることはありません。あまりバランスを気にすることは無いのです。 私は左心低形成症候群の大動脈狭窄や閉鎖を肺動脈狭窄、閉鎖に変えれば話は簡単だと思いました。 すなわち左心低形成症候群がファロー四徴症や肺動脈閉鎖症に変わるのです。ファロー四徴症は肺動脈狭窄の程度により、 チアノーゼが強くなったり、弱くなったりします。すなわち人工血管を小さくすればするほど、狭窄は強くなり肺にいく血流は減ります。 反対に人工血管を大きくすれば狭窄は弱くなりますから、肺動脈にいく血は増えます。 どのくらいの大きさの人工血管を使えばどのくらいの量が流れるのかは分かりますから、血流量は調整できます。 ファロー四徴症や肺動脈閉鎖症だと思えば、バランスを取るのはそんなに難しくありません。 それに一旦拍出された血液が肺に取られないので、拡張期圧も下がりません。ですから冠動脈に流れる血液も十分に確保されるわけです。
 1998年より2006年までに61人の左心低形成症候群にノーウッド手術して、5人が病院死亡しました。 体重は一番小さい子で1.6kgです。2年生存率は80%。8年間の生存率が76%です。 左心低形成症候群の手術で一番リスクが高いのはやはり第1期手術にあたるノーウッド手術ですが、 それからもやはり次々と亡くなっていきます。調べてみると、遠隔死亡していくのは心臓以外の奇形を持った子が多い。 例えばお腹の手術をした時に亡くなる。それから、第1期手術時に2キロ以下の子、いわゆる未熟児ですが、 こういう子もやはり身体のどこかが弱いのかも知れませんが、突然死したりする子が出てきます。 3キロ以上で心臓以外には何も奇形が無い子はほとんど生きていると思います。

少し古い記事(2007年)ですが、先天性心疾患に対する概観や佐野変法(RV‐PAシャント)の優位性がわかる記事。

日本小児循環器学会雑誌 巻頭言(2009年第5号)

わが国で再開されたRV-PA conduitによるNorwood手術は,2000年頃より左心低形成症候群に対する第一期手術として,欧米でも広く行われるようになりました.本術式では体循環の拡張期血圧が低下しないため,肺血流量が多少過大であっても手術生存できる点がピットフォールかもしれません.心室容量負荷による三尖弁の閉鎖不全が増強し,さらなる右室容積の増大,心機能の低下から遠隔死亡する症例が見られました.
 これに対し,新生児期の体外循環を避けて第一期手術として両側肺動脈絞扼術を行い,心室の容量負荷を新生児期早期から減じる,あるいは肺血管抵抗の減少に伴う容量負荷の増大を防止する方法があります.動脈管の長期の開存のためには,ステントを留置する方法と,PGE1の持続投与により次のNorwood手術まで待機する方法がとられています.そして第二期手術のNorwood手術時の肺血流路として,BT shuntやRV-PA conduitではなく,いきなりGlenn手術を行うと心室の容量負荷を一気に軽減することができます.PGE1の持続投与を行った場合は,第二期手術まで長期の入院が必要となり,点滴ルートの長期維持,静脈血栓カテーテル感染などの問題に加え,動脈管の狭小化による体心室不全,突然死の問題があります.しかし,Norwood手術と同時にGlenn手術を行う方法は,赤ちゃんの小さな心臓に負担をかけることの少ない優れた治療方法と考えます

こちらも2009年のため少し古い。ノーウッド+グレン手術を選択する考え方が記載されている。

Norwood手術におけるmodified BT shunt,RV-PA shuntの比較:心臓麻酔Workshop 伊豆の国出張所:So-netブログ

RV-PA shuntでは肺血流は収縮期のみに限定されるため特に周術期の血行動態は安定する.このためRV-PA shuntの登場により術後早期の経過が安定することになった.一方,中長期ではRV-PA shuntでは弁なし人工血管から右室への逆流や右室切開による心機能への悪影響,肺動脈発育不良などが懸念される.
 本研究でも上記のことを確認する結果となった.すなわち術後12ヵ月まではRV-PA shunt術の方が有利であるが,12ヵ月を過ぎると予後はshunt法によらないのである.現在,本邦ではRV-PA shunt術が優勢であるが海外ではmBT shuntと併用している施設も多い.

短期的に見ると、佐野変法(RV‐PAシャント)のほうが優位性があるが、長期的な予後にそれほど違いはないということが述べられた2010年の記事。

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 108-110 (2015)

左心低形成症候群(HLHS)に対する治療方針には,現在おおまかに下記のような複数の選択がある.

方針Ⅰ. NW→BDG→Fontan.
方針Ⅱ. BPAB→NW+BDG→Fontan.
方針Ⅲ. BPAB→NW→BDG→Fontan.
方針Ⅳ. 移植.
(NW: Norwood手術,BDG: 両方向性Glenn手術,BPAB: 両側肺動脈絞扼術)

このうち本邦では現実的には方針Ⅰ~Ⅲの選択になるが,各施設によりそれぞれの手術の目標時期は微妙に異なり,個々の症例によって各施設内でも複数の治療方針が選択されているのが現状であろう.また,NWではBT shuntにするのかRV–PA shuntにするか,動脈管の維持はPGE1の点滴にするのかstentを留置するのか,という選択もあり,それぞれに長短所がある.

(中略)

1994~2003年までは方針Ⅰで臨んだが,わずか2例の耐術例のみであった.2004~2009年までは方針Ⅱに変更し耐術例は増加したものの,生後3ヵ月あまりでBDGを行うと著者らの報告と同様に術後とくに急性期にSVCの圧が高値で管理に難渋する例を経験した.また,そのような例ではBDG術後Fontan待機中外来にて脳出血を生じ失った例も経験した.このため2010年からは方針Ⅲに変更した.当初はBPAB後NWの時期を生後1ヵ月過ぎまで待機していたが,概して体重はあまり増えず,また大動脈閉鎖例では待機中心電図上虚血性を疑う変化をきたす症例があったり,動脈管がPGE1使用下でも狭窄をきたし準緊急手術となる例を経験したりしたことからNW時期を徐々に早め,現在では生後2週間から1ヵ月までを目標に行うことにしている.

またBPABの時期も方針Ⅱの当初は生後1週間程度待機したりしていたが,わずか生後1日でもhigh flow shockとなった症例を経験してからは,遅くとも生後3日までには行うようにしている.

このような変遷から現在の当院の方針としては方針Ⅲで,とくに生後1~3日目のBPAB, 生後2週~1ヵ月までのNW(RV–PA or BTS),生後3~6ヵ月くらいでのBDGを基本としている.

もちろん現方針にも問題点はあり,RV–PAを選択した場合方針Ⅱに比べて長期的に心機能に悪影響はないのかという点はあるが,山内論文にも示されているように明らかな差はなく,今後の長期の成績の報告が待たれるところである.また,方針ⅢでNW時期を生後2週近くに早めた場合,方針Ⅰとどれだけ差があるのかということにもなる.しかし,たとえ1週間でもBPABをして待機することは腎機能をはじめ新生児期早期の各臓器の機能の成熟にとって有利で,術後管理を非常にスムーズなものにしていると考えている.

他にもBPAB部はNW時にbanding tapeを除去して周囲の癒着組織を剥離するのみで狭窄は残らず,おそらく生後早期にBPABを行い脳循環の改善を図り早期の体外循環使用を回避することは長期の脳神経の発達にも有利ではないかと考えている.

2015年のため、比較的新しい。両側肺動脈絞扼術を生後すぐ行い、生後1ヶ月でノーウッド手術、生後半年でグレンを行う方針の優位性を記載した記事。 

左心低形成症候群ノーウッド佐野手術後のフォンタン手術—RV‐PAシャントの中期成績への影響・心機能,不整脈への懸念は現実なのか?—右室型単心室症との比較

佐野 俊二医師など岡山大学病院における佐野変法(RV‐PAシャント)が長期的な予後に影響が少ないと記載されている記事

佐野 俊二|DtoDコンシェルジュ

佐野 俊二医師の紹介記事。

日本循環器学会雑誌 第28巻

心房中隔裂開術、バルーン血管形成術などカテーテル手術の概観。