左心低形成症候群と子育て日記

子供が左心低形成症候群(HLHS)でした。1歳半でフォンタン手術まで完了し、無事2歳を迎えました。

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インターネット上で病気について調べていた際に有用性のあった記事。下記を踏まえての私の見解は各エントリに記載。

心臓病の子どもを守る会(岡山県支部)* 第45回 全国心臓病の子どもを守る会 全国総会

さて私が今世界で少し有名になっている理由が二つの手術にあります。その一つは左心低形成症候群に対する右室―肺動脈シャントです。 左心低形成症候群では上行大静脈が非常に細く、肺動脈は非常に太いのが通常です。ノーウッドの手術では1)新しい大動脈を作る、 2)肺に行く血流を作る、3)心房中隔を切り取り、心房を単心房にして酸素が混ざるようにする。 これが大切な3つの要素です。このノーウッド手術を世界で一番多い施設(フィラデルフィア小児病院) で生存率63%。1000例以上やっている施設でも37%の死亡率です!信じられますか?1000例以上手術をしても、 まだ30%以上の子どもたちが死んでいるのです。調べてみると世界中の有名な施設、 有名な小児心臓外科医達がどこも同じような成績を出しているのです。皆成功率60-70%なのです。 どう考えてもおかしい。これらの心臓外科医は他の手術ではすばらしい成績を出しています。 何故かノーウッド手術だけ成績が悪いのか?それも10年以上に渡ってです。しかしその当時の日本は、 もっと悲惨な成績で、5-6の主要施設の病院死亡は58%、遠隔期死亡は20%ですから、結局生きている子はたった15-20%でした。

 1998年にノーウッド手術の変法で、右心室と肺動脈の中に、ゴアテックスの人工血管でシャントを作り、 肺血流量をキープする方法を発表しました。これが今言われている佐野手術です。ノーウッドの手術は鎖骨下動脈と肺動脈の間にシャントをして、 新しい大動脈に流れた血液の一部が肺動脈に流れていく。ですから、肺血流は体血流とのバランスによって血流の比率が変わるのです。 子どもが泣けば肺の抵抗は上がりますから、肺に流れにくくなり、チアノーゼはひどくなりますが、体に流れる血液は増えます。 しかし泣き止むと、肺の抵抗は下がり、肺に血が流れやすくなりますから、体に流れる血液量は減ります。すなわち血圧が下がるのです。 ですからちょっとしたことでバランスが崩れ突然死するのです。一方、佐野手術は心臓から血液を流す時に、体に流れるのと、 肺に流れるのとに別れてしまいますから、ですから体に出された血液が肺に取られることはありません。あまりバランスを気にすることは無いのです。 私は左心低形成症候群の大動脈狭窄や閉鎖を肺動脈狭窄、閉鎖に変えれば話は簡単だと思いました。 すなわち左心低形成症候群がファロー四徴症や肺動脈閉鎖症に変わるのです。ファロー四徴症は肺動脈狭窄の程度により、 チアノーゼが強くなったり、弱くなったりします。すなわち人工血管を小さくすればするほど、狭窄は強くなり肺にいく血流は減ります。 反対に人工血管を大きくすれば狭窄は弱くなりますから、肺動脈にいく血は増えます。 どのくらいの大きさの人工血管を使えばどのくらいの量が流れるのかは分かりますから、血流量は調整できます。 ファロー四徴症や肺動脈閉鎖症だと思えば、バランスを取るのはそんなに難しくありません。 それに一旦拍出された血液が肺に取られないので、拡張期圧も下がりません。ですから冠動脈に流れる血液も十分に確保されるわけです。
 1998年より2006年までに61人の左心低形成症候群にノーウッド手術して、5人が病院死亡しました。 体重は一番小さい子で1.6kgです。2年生存率は80%。8年間の生存率が76%です。 左心低形成症候群の手術で一番リスクが高いのはやはり第1期手術にあたるノーウッド手術ですが、 それからもやはり次々と亡くなっていきます。調べてみると、遠隔死亡していくのは心臓以外の奇形を持った子が多い。 例えばお腹の手術をした時に亡くなる。それから、第1期手術時に2キロ以下の子、いわゆる未熟児ですが、 こういう子もやはり身体のどこかが弱いのかも知れませんが、突然死したりする子が出てきます。 3キロ以上で心臓以外には何も奇形が無い子はほとんど生きていると思います。

少し古い記事(2007年)ですが、先天性心疾患に対する概観や佐野変法(RV‐PAシャント)の優位性がわかる記事。

日本小児循環器学会雑誌 巻頭言(2009年第5号)

わが国で再開されたRV-PA conduitによるNorwood手術は,2000年頃より左心低形成症候群に対する第一期手術として,欧米でも広く行われるようになりました.本術式では体循環の拡張期血圧が低下しないため,肺血流量が多少過大であっても手術生存できる点がピットフォールかもしれません.心室容量負荷による三尖弁の閉鎖不全が増強し,さらなる右室容積の増大,心機能の低下から遠隔死亡する症例が見られました.
 これに対し,新生児期の体外循環を避けて第一期手術として両側肺動脈絞扼術を行い,心室の容量負荷を新生児期早期から減じる,あるいは肺血管抵抗の減少に伴う容量負荷の増大を防止する方法があります.動脈管の長期の開存のためには,ステントを留置する方法と,PGE1の持続投与により次のNorwood手術まで待機する方法がとられています.そして第二期手術のNorwood手術時の肺血流路として,BT shuntやRV-PA conduitではなく,いきなりGlenn手術を行うと心室の容量負荷を一気に軽減することができます.PGE1の持続投与を行った場合は,第二期手術まで長期の入院が必要となり,点滴ルートの長期維持,静脈血栓カテーテル感染などの問題に加え,動脈管の狭小化による体心室不全,突然死の問題があります.しかし,Norwood手術と同時にGlenn手術を行う方法は,赤ちゃんの小さな心臓に負担をかけることの少ない優れた治療方法と考えます

こちらも2009年のため少し古い。ノーウッド+グレン手術を選択する考え方が記載されている。

Norwood手術におけるmodified BT shunt,RV-PA shuntの比較:心臓麻酔Workshop 伊豆の国出張所:So-netブログ

RV-PA shuntでは肺血流は収縮期のみに限定されるため特に周術期の血行動態は安定する.このためRV-PA shuntの登場により術後早期の経過が安定することになった.一方,中長期ではRV-PA shuntでは弁なし人工血管から右室への逆流や右室切開による心機能への悪影響,肺動脈発育不良などが懸念される.
 本研究でも上記のことを確認する結果となった.すなわち術後12ヵ月まではRV-PA shunt術の方が有利であるが,12ヵ月を過ぎると予後はshunt法によらないのである.現在,本邦ではRV-PA shunt術が優勢であるが海外ではmBT shuntと併用している施設も多い.

短期的に見ると、佐野変法(RV‐PAシャント)のほうが優位性があるが、長期的な予後にそれほど違いはないということが述べられた2010年の記事。

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 108-110 (2015)

左心低形成症候群(HLHS)に対する治療方針には,現在おおまかに下記のような複数の選択がある.

方針Ⅰ. NW→BDG→Fontan.
方針Ⅱ. BPAB→NW+BDG→Fontan.
方針Ⅲ. BPAB→NW→BDG→Fontan.
方針Ⅳ. 移植.
(NW: Norwood手術,BDG: 両方向性Glenn手術,BPAB: 両側肺動脈絞扼術)

このうち本邦では現実的には方針Ⅰ~Ⅲの選択になるが,各施設によりそれぞれの手術の目標時期は微妙に異なり,個々の症例によって各施設内でも複数の治療方針が選択されているのが現状であろう.また,NWではBT shuntにするのかRV–PA shuntにするか,動脈管の維持はPGE1の点滴にするのかstentを留置するのか,という選択もあり,それぞれに長短所がある.

(中略)

1994~2003年までは方針Ⅰで臨んだが,わずか2例の耐術例のみであった.2004~2009年までは方針Ⅱに変更し耐術例は増加したものの,生後3ヵ月あまりでBDGを行うと著者らの報告と同様に術後とくに急性期にSVCの圧が高値で管理に難渋する例を経験した.また,そのような例ではBDG術後Fontan待機中外来にて脳出血を生じ失った例も経験した.このため2010年からは方針Ⅲに変更した.当初はBPAB後NWの時期を生後1ヵ月過ぎまで待機していたが,概して体重はあまり増えず,また大動脈閉鎖例では待機中心電図上虚血性を疑う変化をきたす症例があったり,動脈管がPGE1使用下でも狭窄をきたし準緊急手術となる例を経験したりしたことからNW時期を徐々に早め,現在では生後2週間から1ヵ月までを目標に行うことにしている.

またBPABの時期も方針Ⅱの当初は生後1週間程度待機したりしていたが,わずか生後1日でもhigh flow shockとなった症例を経験してからは,遅くとも生後3日までには行うようにしている.

このような変遷から現在の当院の方針としては方針Ⅲで,とくに生後1~3日目のBPAB, 生後2週~1ヵ月までのNW(RV–PA or BTS),生後3~6ヵ月くらいでのBDGを基本としている.

もちろん現方針にも問題点はあり,RV–PAを選択した場合方針Ⅱに比べて長期的に心機能に悪影響はないのかという点はあるが,山内論文にも示されているように明らかな差はなく,今後の長期の成績の報告が待たれるところである.また,方針ⅢでNW時期を生後2週近くに早めた場合,方針Ⅰとどれだけ差があるのかということにもなる.しかし,たとえ1週間でもBPABをして待機することは腎機能をはじめ新生児期早期の各臓器の機能の成熟にとって有利で,術後管理を非常にスムーズなものにしていると考えている.

他にもBPAB部はNW時にbanding tapeを除去して周囲の癒着組織を剥離するのみで狭窄は残らず,おそらく生後早期にBPABを行い脳循環の改善を図り早期の体外循環使用を回避することは長期の脳神経の発達にも有利ではないかと考えている.

2015年のため、比較的新しい。両側肺動脈絞扼術を生後すぐ行い、生後1ヶ月でノーウッド手術、生後半年でグレンを行う方針の優位性を記載した記事。 

左心低形成症候群ノーウッド佐野手術後のフォンタン手術—RV‐PAシャントの中期成績への影響・心機能,不整脈への懸念は現実なのか?—右室型単心室症との比較

佐野 俊二医師など岡山大学病院における佐野変法(RV‐PAシャント)が長期的な予後に影響が少ないと記載されている記事

佐野 俊二|DtoDコンシェルジュ

佐野 俊二医師の紹介記事。

日本循環器学会雑誌 第28巻

心房中隔裂開術、バルーン血管形成術などカテーテル手術の概観。

グレン手術後の左反回神経麻痺

グレン手術後に合併症の一つとして注意されていた左反回神経麻痺が発生した。これは手術において声帯に繋がる反回神経を刺激してしまうことで、麻痺が発生してしまう病気である。

症状

声帯が動かせないため、声がかすれる、小さくなる。また声帯を閉じられないことから、気管にミルクが入ることで、むせてしまう。そのため経口でのミルクが飲めず、鼻から胃に経管チューブを入れて、そこから流し込むことが必要。

治療方法

ステロイドの吸入なども行うが、基本的には時間経過による自然治癒を待つ。1ヶ月から半年以内に治癒することが多いが、そうでない場合は治らないこともある。ただし、その場合でも右の声帯が動いていれば、左が固定されたままでも、徐々に声も出て、食事も経口で行えるようになり、日常生活には問題ないことが多い。

我が子の場合

せっかくグレン手術まで無事に終わったにもかかわらず、ミルクが口から飲めないというのは地味に家族にストレスが残った。結局経管栄養のまま退院し、家でミルクを飲む練習をすることになった。普段のミルクは慣れればどうということはない*1のだが、とにかく週に1回鼻からチューブを入れ直すのが本人のも家族にもストレス。幸い訪問看護によるサポートがあったため、何とか乗り切ることができた。いつ治るかはらはらしていたが、術後2ヶ月半経った頃に、急にミルクをがぶがぶ飲み出し、声も大きくなったので、一安心という結末に。

*1:胃に管が入っているかの確認などの練習することはある

1ヶ月〜ノーウッド+グレン手術〜退院後まで

35日目

一般病棟へ。

45日目頃(1ヶ月半)

プロスタグランジンの点滴の点滴漏れ、細菌感染などにより、一時的に熱がでる。抗生物質の投与と、点滴の差し替えにより軽快。

60日目(2ヶ月)

再度心房中隔が狭くなったため、カテーテル手術を実施

90日目(3ヶ月)

体重は5キロ到達。ノーウッド手術+グレン手術を実施。術後、体重は500g減った。手術後に肺動脈絞扼の影響とみられる肺動脈狭窄と、手術自体による影響で左反回神経麻痺が発生。しばらくは経口でミルクを行わず、鼻からの胃管による経管栄養を行うことに。誕生初めて術後に点滴が全て外れる。

120日目(4ヶ月)

肺動脈狭窄の対応として、バルーン肺動脈形成術を実施。多少の改善。哺乳瓶でのミルクの練習を開始。

140日目

経管栄養のまま退院。

160日目(5ヶ月と少し)

反回神経麻痺の症状がなくなり、全て経口でのミルクが可能となる。

誕生から1ヶ月

誕生

明け方

妊娠中は特に指摘なし。今にして思えば、本来わかるはずのことを見逃されてしまった。誕生後、酸素飽和度が低く、念のためという形で保育器へ。

夕方

変わらず。元気そうではあった。

1日目

早朝

ミルクを少し飲む

容態急変。呼吸が弱くなり、酸素飽和ども下がる。出産した病院では検査できないため、救急車で近くの大学病院へ。チアノーゼで顔色悪く、気管挿入を実施。

夕方

検査終了。左心低形成症候群という心臓病の中では1,2を争う難病であること。現在多少のショック状態であり、全身の状態も悪い。原因は不明。今は2歳くらいまでに三回手術して、成功すれば日常生活程度なら送れることもあるとの説明。

いったん帰宅。妻は出産の病院に残る。病気について可能な限り調べる。

2日目

大学病院では手術の空きがないため、別の病院へ転院。プロスタグランジンの投与等で顔色は多少よくなり、排便も見られた。

救急車で搬送。翌々日に両肺動脈絞扼術を行うことを決定。見た目の状態は多少良くなってきている。

4日目

両肺動脈絞扼術を実施。無事終了。

7日目

ミルクを胃管チューブで10ccを8回はじめる。

10日目

点滴がプロスタグランジンの1本に

14日目

一時的な不整脈が発生も電気ショックで戻る

30日目

心房中隔欠損が狭くなってきていたため、バルーンカテーテル心房中隔裂開術を実施。酸素飽和度が良化する。

外科手術の術式の考え方

左心低形成症候群において、外科手術の術式は未だ確定的な方法は見いだされていない。各医師、病院によって考え方が異なるのが2016年時点の状況である。家族として、術式の現状・メリット・デメリットを理解して、医師と相談することが肝要である。各手術の図入りの詳細などは病院の説明や、本にて確認を推奨する。

外科手術についての基本的な知識

両肺動脈絞扼術

先のエントリで述べた外科手術。この手術は、今後どの術式を選ぶとしても必ず行うべきものであり、とにかく生後すぐに行うことが重要と考えられている。

ノーウッド手術

酸素化された血液が右心室から動脈管経由で大動脈→全身と流れている状態を改善する手術。通常は生後1ヶ月、グレン手術と同時に行う場合は生後3~4ヶ月で手術する。右心室からの肺動脈と左心室から伸びているが低形成となっている上行大動脈を吻合して、大動脈弓を作成する。端的にいえば、プロスタグランジンで開けていた動脈管がなくても、右心室からの血液が全て新しい大動脈弓から全身に流れるようにするという手術である。しかしこれだけでは全身から帰ってきた静脈血が肺に流れなくなってしまう。そこで下記の2つの手術のうちのどちらか、もしくはグレン手術を同時に行うわけではあるが、その術式が未だ確定的ではない。なおノーウッド手術は一般的に成功率が70パーセント程度と言われているが、その理由は手術後に血行動態が安定しづらく、術後の管理が難しいからと言われている。

  • BTシャント術

ゴアテックスなどを使用した人工血管を使用し、鎖骨下動脈と肺動脈を繋ぐ。この場合全身からの血液は、右心房→右心室→再建された大動脈→鎖骨下動脈→人工血管→左右肺動脈の順に流れて肺へ流れる。ノーウッド手術と同時に行う手術としては、初期から行われている方法であり、海外での実績は未だ多い。デメリットとしては、肺に血液がどれくらい流れるかが、肺動脈の血管抵抗次第であるため、子供が泣いたときなどに血流量が不安定になりがちであり、血行動態が安定せずに、術後の管理が難しいということである。

  • 佐野変法

岡山大学病院の佐野医師が考案したシャント術。BTシャントでは鎖骨下動脈から肺動脈に繫いだが、この方法では右心室に穴を開けて、人工血管を接続し、直接肺動脈に繫ぐ。右心室から拍動性の血流が直接肺に流れることとなるため、血流が安定しやすい。今のところ大きなデメリットはないと考えられるが、手術するのならば岡山大学病院に転院することを考えてしまうことが一番の問題かもしれない。

グレン手術

フォンタン手術を目標として段階的に行う手術。上半身から戻ってきた静脈が流れている上大静脈を右心房から切断し、肺静脈に直接繫ぎ、ノーウッド手術にて行ったシャントは切除する。これによって、上半身から戻ってきた血液は直接肺へ、下半身から戻ってきた血液は右心房にて、左心房からきた酸素化された血液と混じって、また全身に戻っていくこととなる。後者が酸素化されていなくていいのかという気になるが、乳児は下半身からの血流が少ないため、その状態でもしばらくは問題ないらしい。酸素飽和度は80前後となることが多い。グレン手術を行うためには、上大静脈からの血液が肺に十分流れるくらいに肺血管抵抗が小さくなっていることが必要となる。また体重は5キロ以上あることが望ましいとされるため、生後3~4ヶ月で行われることが多い。

フォンタン手術

下大静脈を右房から切断し、肺静脈に繫ぐ手術。グレン手術から1年後の1歳から2歳で行うことが多い。これによって全身の静脈血が肺動脈圧が下がることを利用して、直接肺へ灌流されるようになる。一方で酸素化された血液は肺静脈→左心房→心房中隔欠損*1→右心房→右心室→大動脈弓→全身と流れるようになり、チアノーゼは解消される。

ノーウッド手術か、ノーウッド+グレン手術か

現時点において、ノーウッド手術単独で行う際には佐野変法によるシャントを繫ぐことが多くなってきており、BTシャントは日本では減ってきているようである。しかしもう一つの方法として、ノーウッド手術とグレン手術を同時に行ってしまうという方法も存在する。どちらが良いかということについては、医師・病院によって考え方異なり、判断が非常に難しい。ここでは私の体験を通じて、患者の家族としてのメリットデメリットを述べたい。

生後1ヶ月にノーウッド手術を行い、半年後にグレンを実施するパターン

メリット

  • 佐野医師をはじめ、日本の先天性心疾患の先進的な取り組みを行っている病院では採用実績が多く、安心感がある
  • 一番難しいノーウッド手術を生後1ヶ月で行い、早期に一度退院となるため、家族の精神的な負担が長引かない
  • プロスタグランジンの点滴を行っている期間が短いため、点滴漏れ、体調維持に関するリスクが減る。
  • 心房中隔欠損の維持期間が短い。
  • 肺動脈絞扼の期間が短く済む

デメリット

  • 生後1ヶ月という低体重の状態で手術となるため、心臓以外に問題があった場合に手術に耐えうるかが問題となる。
  • BTシャントでしか行わない病院だった場合、転院を考慮することとなる。
  • 一時的とはいえ人工血管によるシャントを体内に入れる不安
  • 入院中は状態が安定しないことが多く、直母・育児を行うタイミングが遅くなりがち。
  • 外科医の腕が非常に問われる。

生後3~4ヶ月でノーウッドとグレン手術を同時に実施するパターン

メリット

  • 生後3ヶ月で5キロ以上とある程度体重が増えた状態で外科手術を迎えられる。
  • 入院中に直母・沐浴などの育児がある程度可能
  • 大きな手術まで時間があるので、精神的な準備が出来る。
  • 人工血管によるシャントが不要。
  • 手術の難易度が少し下がる。

デメリット

  • 肺動脈の絞扼が3ヶ月以上に及ぶため、その後に肺動脈の狭窄が起きる可能性が上がり、長期的な予後に影響する。
  • 外科的な対応遅くなるため、3ヶ月の間に心房中隔欠損が狭くなった場合、カテーテルによるバルーン裂開術が必要。
  • 体重増加や肺血管抵抗低下が予定通りでない場合、方針変更が必要。
  • 長期の点滴による点滴漏れや体調管理が難しさなどのリスクがある。
  • 入院が半年近くなるのが確定的なため、患者・家族の負担が大きい。

結論

上記のメリットデメリットを踏まえた上で各自で判断をしていただきたいが、私としては生後1ヶ月ノーウッド(佐野変法)→生後3ヶ月後グレン手術→2歳フォンタン手術のほうがトータルで見たときの子供、家族の負担は少ないように思われた。ただノーウッド+グレンで行った場合でも、短期的な予後についてはそれほど変わらないと考えられること、また長期的な予後は10年、20年経たないと本当のことはわからず、2016年時点では仮説に過ぎないことから、信頼できる医師、病院がノーウッド+グレンでということであれば、あえて転院まで考える必要はないような気はした。心配な場合は、セカンドオピニオンによる相談を行うことが一番であろう。

*1:ノーウッド手術の際に外科的に心房中隔は取り除いておく

先天性心疾患における病院の考え方

先天性心疾患の子供を授かったときに、病院をどのように探すべきか。頭に入れておきたいのは「外科手術は職人技」「新生児医療はチーム医療」ということである。

心臓外科の考え方

心臓手術、しかも新生児・乳児の心臓手術というのは当然だが、非常に難易度の高い手術である。また大人と違って、執刀する機会というのも限られる。そのため、手術をお願いする外科の先生は「新生児・乳児専門」であることが望ましいと考えられる。また心臓外科においては年間100件程度の執刀がないと、技術はキープできないと言われているため、直近の実績にも注意が必要。必ずしも後で述べる有名なスター医師である必要はないと思うが、在籍する病院の年間執刀数は確認*1し、心臓外科医師の在籍人数から考えて、年間100件程度の担当があるかどうかの確認は必要ではないだろうか。インターネットで調べられる範囲の医療専門雑誌、学会、シンポジウムなどで名前が挙がっているというのも簡易的な確認方法ではあると思われる。

循環器・小児科の考え方

執刀してくれる外科が有名で実績があれば安心かというと、そうもいかないのが先天性心疾患の難しいところ。自分の子供で経験してよくわかったが、術後の容態の安定、変化に対する判断、入院中のちょっとしたトラブルの対応などは、やはり心臓外科が中心となるも循環器科、小児科、NICUなどが如何に上手く連携しているかが、大事なこととなる。大人の心疾患とは違い、各診療科がチームで医療に当たる体制がしっかり取られている病院かどうかということも、心臓外科の腕と同じくらい大事なこととなってくる。

先天性心疾患において実績のある病院

上記踏まえて、病気がわかった2015年時点に調べて、関東在住の私がセカンドオピニオンなども含めて検討したのは下記の病院であった。

左心低形成症候群といえば、ノーウッド手術の術式の一つを生み出している佐野先生が当然のことながら一番有名であり、在籍する岡山大学病院は最初に名前があるところである。そのほかとなると、静岡、福岡、長野など実は関東よりも関西のほうが、先天性心疾患については名医と呼ばれる先生が在籍したり、有名だったりするのは、自分の子供が病気になって初めて知った事実ではあった。上記に通える場所に住んでいるのならば、迷わずお願いすることをオススメする。関東となると成育医療センターと神奈川県立こども医療センターが名前の挙がってくるところ。どちらも外科実績、チーム医療ともに行っており、ベターな選択としては考えて良いとは思われる。ただし外科の先生、体制次第で結果が変わってしまうのが、先天性心疾患の難しいところなので、情報については、そのときに改めて調べてアップデートしていった方がよいとは思われる。

遠くの病院に通うべきか

ここまで調べて私が最後に悩んだのが、遠くの病院に通うかどうかである。当然実績のある病院に転院等したほうが、子供が助かる可能性は上がるように思われる。ただ両親の環境を劇的に変えて、それを行うべきかどうかというのは良く考えるべきところであろう。というのも、入院中、看護師さんだけで、100パーセントの育児・看病はできないという事実をつきつけられると、両親のどちらかは一日中病院で過ごすこととなる。一方で入院が半年近くなることもザラではあるし、また手術は何年も時間をかけて行うものだ。非常にストレスもかかるし、肉体的にも負担がかかることとなる。もし転職、引越などを行うとなるとただでさえ子供の病気で消耗しているところに更なる負担がのしかかってしまう。看病も育児も数年、10年単位で行うものである。地元の病院が先の条件を一切満たさない病院しかないのならば、迷う必要はないかもしれないが、ある程度の実績、経験のある病院があるのであれば、家族の負担というのもしっかり考慮に入れて、病院選びは判断した方が良いと考えている。

*1:病院のサイトを見れば、過去数年分の実績は確認できる